『薩摩斑目家』の歴史
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158す幻の寺は面影も何もなく、一帯は今風にこじゃれた一軒家群に変貌していた。いかにも新しく開発された住宅地らしく、直線で整然と区分けされた住宅の塀沿いには、一昨日の大雪が雪かきされて白い山脈のように連なっていた。もう半世紀も前になるのか、この地に「天宗総本山日仏寺」と号した寺があったはずなのだ。辺りいったい目に入るものに、手掛かりとなるものは何もない。道路の真ん中で所在なく立ち尽くしていると、年老いた男性が二匹の子犬を連れてぶらぶらと歩いてきた。「日仏寺というお寺がこの辺にあったのを、ご存じありませんか」記憶の金庫の隅っこにでも何か入っていればと、期待しつつ尋ねてみた。だが、見たこともなければ、聞いたこともないということだった。この辺の住宅は、いつごろ建ち始めたのですかと問い返したら、「50年前ですね」と。それにしては、どの家もまだ新築めいた匂いを微かに残している。「みんな20年前に、建て替えたからですよ」。
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